【R18】無題

 重力を感じさせない颯爽とした走りが印象に残っているせいか、長らく人肌の温もりと縁がなかったせいか、初めて蔵内に触れたときの違和感は今でも覚えている。
 長身と言われる水上よりもさらに恵まれた彼の肉体は確かな重みを持っていた。のしかかられると水上の身体ごとベッドに沈むような圧迫感が忘れられない。全体重をかけられたら抵抗できなくなりそうなほどだった。
 ベッドに寝そべっていた水上は今、腰に蔵内の重みを感じていた。彼は水上のものを腹に収め、自ら動いて快楽を貪っていた。Mの字に膝を立て、ベッドに後ろ手をつくさまはまるで結合部を見せつけているようだった。
 蔵内は無防備な姿を惜しげもなくさらけ出している。精子を溜め込んだ睾丸はせり上がり、結合部をより観察しやすくしていた。
 彼が動く度に筋肉がうねりが皮膚の表面に現われる。豊かな胸板も、筋肉の上に脂が乗った腹も、肉づきのいい太腿も全て自分のものだ。
 蔵内が腰を持ち上げると水上の陰茎に吸いつくようにして内壁が捲れ上がり、座ると巻き込むようにして収縮を繰り返す。自分の性器を蔵内に揉みくちゃにされる光景から目を離すことができない。
 上下する動きに合わせて蔵内の性器も揺れていた。体格に見合ったものは限界まで張りつめ、使用する準備はすっかり整っていた。しかし誰にも受け入れられることなく、ただ足の付け根で虚しく震えるだけだった。
 機械的な表情だと言われる彼も、情交の際は顔が緩む。感情が高ぶると涙が出やすい性質らしく目は赤く潤んでいた。汗か涙か分からない液体が頬を伝って蔵内の胸を濡らした。
 蔵内の穴に多めに仕込んだローションは水上の陰茎に押し出され、結合部は白い泡が立っていた。蔵内が一定のリズムで水上の腰に尻を打ちつけ、その度にローションを捏ねる水音が部屋に響く。
「ぁあっ……!」
 電流でも流されたかのように蔵内の身体がびくついた。今になって何を隠すことがあるのか、蔵内は水上から顔を背けて身体を硬直させた。赤く腫れ上がった亀頭、その割れ目から何度か分けて精液が噴き出す。水上の腹に生温い体液が落ちた。
 内壁が激しく収縮して陰茎が持って行かれそうになる。激しく追い立てられて水上も被膜越しに蔵内の中に吐精した。
 絶頂の余韻を二人で分かち合う。無音の部屋には二人の荒い息遣いが満ちていた。
 達したばかりで敏感になっている身体に刺激を与えないようゆっくりと蔵内の腰を掴んだ。冷静さを取り戻したとはいえ、呼吸に合わせて収縮する秘部が目の前にあるのは毒だった。
「蔵っち、疲れたやろ。俺ならこんなスクワットみたいなんようせん」
「水上……」
 顔を背けていた蔵内が水上のほうを向いた。はらりと一筋の前髪が額に落ちたのが色っぽい。
「今抜く、ん……」
 蔵内が立ち上がると、芯を失った水上のものが結合部からまろび出た。蔵内は水上のすぐ横に座った。水上もスキンの処理をするために上半身を起こした。縮んだ性器に手をかけようとしたそのときだった。
 蔵内の手が水上の陰茎を握ったのだ。何事かと蔵内の顔を見たが、当の蔵内はじっと水上の股間を凝視している。まるで魅入られているかのようだった。彼が処理してくれるのだろうか。
 慣れた手つきで蔵内は水上のものからスキンを取り外した。精液溜まりがぷっくり膨れたスキンの口を縛ってティッシュに包んで捨てた。ここまでは予想内だった。
 蔵内が水上の顎を掬い上げて口づけてきた。肉厚の舌が口内に侵入してくる。一戦終えたばかりで荒くなっている息が顔にかかる。そのまま唇が水上の顎に触れ、首筋から胸元へと下りていく。腹を伝って腰を経て、やがて局部に到着する。
 這うようにして水上の足の間に伏せた蔵内が、白濁でぬめる亀頭に舌を這わせた。赤く充血したところを何度か舐めてから先端に口づけた。
「……お、おい。流石にすぐには無理や」
 水上の声を無視した蔵内は掌を筒状にして水上の陰茎を握った。力を失ったそれを手で支えながら、根元から先端まで舌を往復させた。
 浮き出た筋に沿って伝い落ちる精液が舌先に掬い上げられる。過敏になっている裏筋や雁首に痛みを与えないようゆっくりと丁寧に、そして確実に蔵内の口によって洗われていた。
 奉仕しながら、痛くないかと尋ねるように蔵内が視線を上げた。自分の性器と蔵内が並ぶ様子にぴくりと股間が反応する。
 このような状況はたまにあったが、美丈夫が自分にかしずくというシチュエーションがどうにも現実離れしていて、事実として捉えるのが難しかった。潔癖そうな普段の彼の姿とあまりにもかけ離れているからというのもある。
 蔵内のもう片方の手は水上の尻の下に差し込まれた。陰嚢を掌に乗せて持ち上げる。粘液で汚れたそこも舌で舐め取った。あやすように表面をゆるゆるとさすられ、縫い目を確かめるようになぞられる。生卵の黄身の形を変えないような慎重さで睾丸を一つずつ吸われた。
 性器全体を清め終えると蔵内は大きく口を開いた。途端に彼の腹の中とは違った快感が股間にじんと広がる。
 息が詰まった。根元まで全てとはいかないが陰茎のほとんどが彼の口の中に収まった。男の口は大きいと他人事のように実感する水上をよそに、蔵内は唾液で性器をすすいでいる。
 そして、大きな手が根元を圧迫した。尿道に残った精液を押し出し、蔵内は口をすぼめて吸い上げた。射精感に似た感覚が陰茎を駆け抜けていった。
「っ!」
「その気になったか?」
「そりゃこんなエロいことされたらなるやろ……」
 口淫に耽る蔵内の髪の毛に手櫛を通すと、気持ちよさそうに目を細めた。
「蔵っちも勃っとる」
 何に反応したのか、また大きくなっている蔵内の性器が見えた。ここまで奉仕されたのなら期待に応えなければならないだろう。
 蔵内の肩を叩くと、彼は名残惜しそうに水上のものから口を離した。亀頭と唇の間に唾液の糸がかかったがすぐに壊れた。
 幅も奥行きもある身体を抱きしめる。シャワーを浴びたままのように濡れそぼった皮膚は熱い。肩はまだ大きく上下している。
 こちらに呼び寄せて、大きな身体をベッドに横たわらせた。ずっと主導権を渡していたが今度はこちらの番だ。
 額に張りついた前髪を上げて口づける。そして目元へ、鼻へと唇を移していく。
 端正な顔の、赤い瞳の奥に燃え立つ欲情がちらついている。しかしこんな行為にあっても柔和なところに惹かれていた。つい先ほどまで水上を貪っていたとは思えない。
 水上をうっとりとした様子で受け入れる蔵内を愛おしく思った。

初稿
2022年7月12日
改稿
--